忘れること

私は傷口を放っておくことができない。

傷口にかさぶたができると、痒くなるし、火照るし、気になって、剥いてしまう。
また血が出てくる。
また痛さが蘇る。
ああ痛いと思う。
そこでその傷の存在を改めて実感し、傷はまだ完治していないこと確認する。
痛みには種類があって、傷口によって刺激が異なる。
ヒリヒリするなぁとか、ピリピリするなぁとか、ズキズキするなぁとか思う。
次に同じ怪我をしないようにするためには、痛みの特徴をちゃんと覚えておかないといけない。
だから私は傷口をむしらずにはいられない。(もちろんかさぶたが気になるからっていうのもあるけどね。)
痛いのはもうごめんだから、何回も何回も掻きむしって、掻きむしって、痛みを確認するのだ。

静かにそうっとしておけば、綺麗に治るのだけど、そうはいかない。
かさぶたをめくるたびに、傷口の形が変わっていくことや、痛みが変わっていくことがある。

一年前の痛みと今の痛みはだいぶ違うような気がするだけど、私は不毛にもまだかさぶたを掻きむしり続けている。